「いい風だね」
── カエルの声と、母から受け取った夜のこと
シングルで子育てをしていた頃、
初夏の田んぼと、カエルの鳴き声が、
いつも、そっと、寄り添ってくれていました。
夜が、少しずつ深くなってきた季節。
田んぼのある場所に住んでいた頃の、お話を少しだけ。
子どもが眠ったあとの、ひとりの時間
シングルで、子育てをしていました。
私の勝手に、巻き込まれた──
あの子の人生。
だから、せめて、
子どもとの時間は、
楽しい時間にしたかった。
子どもが寝るまでは、その子のための時間。
ぜんぶ、その子のために。
そして──子どもが、すうすうと眠ったあと。
ようやく、ひとりの時間が、訪れます。
近くには、田んぼがたくさんあって
住んでいたところの近くには、
田んぼが、たくさんありました。
この時期になると、
あちこちから、カエルが鳴き始めるんです。
窓を少し開けると、
涼しい夜風と、カエルの声が、
そっと、部屋に流れ込んでくる。
思い出すのは、母のこと
ある夜、和室で、子どもと一緒に寝転んでいたとき──
ふと、母のことを、思い出しました。
私がまだ、小さかった頃。
同じように、母と並んで、寝転んでいた夜のこと。
母は、ぽつりと、こう言ったんです。
「いい風だね。」
「カエルの鳴き声は、落ち着くね。」
「昔も、今も。」
不思議だな。
子どもの頃の私も、
そして大人になった今の私も、
なんだか、この空気感が、懐かしくて、癒される。
みんな、一緒なのかな。
今でも、この季節の夜は
子どもが大きくなった今でも、
この季節の夜は、
カエルの声と、
あの日の母の、穏やかなほほ笑みを、
思い出します。
それだけで、
すーっと、こころが落ち着いていく。
でもね、ほんとはね
もう少し、カエルが増えてきて、
鳴き声が、もっともっと大きくなってきた頃は──
「うるさいこと!」
って、言ってたけどねぇ〜。(笑)
そうやって、母も、私も。
毎年、夏を迎えてきました。
あなたの今夜は
あなたの今夜は、
どんな音に、包まれていますか?
窓の外の風や、虫の声や、
家の中の、ささやかな音。
ふと耳を澄ますと、
思いがけない誰かの声を、
思い出すこと、あるかもしれませんね。
── あなたの今夜が、優しい音に包まれますように。
nakamurayamama